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グローバル経営は何故うまく行かないのか(グローバル組織)


海外進出が進み、海外の複数の国に複数の子会社をもちはじめると、海外事業を全体としてどのように経営していくかという課題に直面します。最初は販売拠点だけであったものが、製造や商品開発機能など会社の中枢機能を現地展開しはじめるとグローバル経営の難しさは格段と増します。

 一方で、厳しいグローバル競争を勝ち残っていくためには、単に日本で製造したものを現地で販売するといったビジネスモデルではうまく行きません。また、近年ではサービス業、小売業の海外展開も活発におこなわれており、現地でどのように顧客に価値を提供するか、という基本戦略を日本の本社だけで考えるのは困難な状況になってきています。

 こういった中で、グローバル経営をどのような体制や仕組みで行うのか、という点については、多くの日本企業が試行錯誤や失敗を重ねてきています。これらの失敗や経験知を活かして、今後のグローバル経営を考えていく必要があります。

(失敗例1)海外事業運営は、海外事業部が責任をもつ

 海外進出間もない企業で多くみられるパターンです。海外経験のある人材が少ない、あるいは外国語を話せる人が少ないといった理由で、「海外要員」を一つの組織に集めて、海外事業の運営を任せるというスタイルです。日本の多くの大手企業でも海外進出当初は「海外事業部」方式で海外の事業を運営してきました。

 問題は、外国語を話せる海外人材が必ずしも海外で行っている事業の運営に適任かどうかという点にあります。海外事業といっても、販売にとどまらず、開発、製造を行っていたり、あるいは従業員を採用、育成したり、資金調達を行ったり、といった様々な企業活動を行っていますので、これらの分野を「海外事業部」ですべてカバーすることは現実的には難しいという問題があります。

 また、海外事業部が海外のことを担当している、という職務分担ですので、会社のそれ以外の部署の人たちは、「海外のことは自分たちはよくわからない」という意識になりがちです。これでは、会社の将来の成長をかけて海外進出したのに、全社一丸となって事業を推進できず、うまく行かないということにもなりかねません。

(失敗例2)海外事業は社長直轄で最重要案件として推進する。

 「社長直轄」といえば聞こえは良いですが、海外事業の方針や計画を考える部署も存在せず、また海外子会社の経営も放任状態というのが実態。

 このケースは、海外で買収したり、合弁会社をつくった場合に見受けらます。「もともと現地の会社なのだから、日本の本社から指示をしてもうまく動かないだろう」、「現地の経営者にまかせておくのが一番」といったケース。これも多くの大手企業が海外でM&Aをはじめた1990年代頃に採っていたスタイルです。多くのケースで、買収後の経営がうまくいかず、運営方針を見直したり、最悪、売却したり、といったことが起こりました。

失敗例3)グローバル経営は全社・全部著で推進~日本からの毎日の指示・問い合わせで現地は大混乱

前述の失敗例1、2の反省から、逆に、日本の本社の各部署が海外事業に直接関与するようになることがあります。それぞれの部署から海外子会社に細かい問い合わせや指示が毎日のように入ってきて、誰も交通整理をする人がいないので大混乱といったケースもあります。どういった組織体制で海外事業を運営するかという点をよく考えないと指揮命令やコミュニケーションがバラバラになり、統制不能の状態に陥ります

 グローバル経営を考える際に参考になるのが、Christopher Bartlett とSumantra Ghoshalが提唱したグローバル経営の類型があります。(Transnational Management: Text, Cases and Readings in Cross-Border Management, C. Barlett and S. Ghoshal)

(1) International戦略

 本国で製造した製品を海外販売するケース。現地市場の特性を考慮せず、海外市場を画一的な市場と見做す戦略。

(2) Multinational戦略

 各地の市場特性を考慮して、市場の独自性を重視した戦略。コカコーラの米国本社は最初はInternational戦略をとっていましたが、日本での多様な飲料販売が成功しているのを見て、各国の市場特性を考慮しはじめたと言われています。

(3) Global戦略

 グローバルな効率化を重視した戦略。一番安いところで製造、調達し、世界中に製品を販売するといったモデルもこれに該当します。複数国に製造拠点を有する日本企業の多くがこのモデルを採用しています。コスト競争力、効率性が重視されます。

(4) Transnational戦略

グローバルな効率性や一貫性といった特徴と、ローカル市場への適応の両立を目指す戦略。必ずしも本社主導ではなく、A事業については、X国の拠点が中心となり世界中にノウハウを展開、B事業はY国の拠点が中心になる等、各事業に必要な知見や人材が国を超えて連携する仕組みを構築します。日本企業でも海外展開の経験豊富な企業を中心に、徐々にTransnationalを目指すケースが増えて来ています。

 まずは、どういったグローバル戦略を採るのかということを考えた上で、その戦略の実行に必要な組織を考えていくことが重要です。例えば、海外進出初期でInternational戦略をとっている場合には、海外事業部が海外の業務を一手に引き受ける形でうまく行きますが、Gobal, International戦略を経て、Transnatinal戦略に移行する頃には、全社の各部門、組織がグローバル対応できる力を備えてないと運営が難しくなります

 また、海外事業運営が複雑化し、多くの組織が海外事業に絡んでくるようになると、情報や意思決定の整理も必要になります。このためには組織の整備にとどまらず、事業運営のルール、仕組みを整備していく必要があります。この点については、次回のブログ(グローバルに事業を経営するガバナスの仕組み)で触れることにします。

 

成長戦略としての海外への事業展開を戦略策定、フィージビリティスタディの段階から具体的な実行、実行後の海外事業管理体制の構築まで一貫して支援します。

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