グローバル経営(実践編10)海外M&AにおけるPMIの勘所


海外でのM&Aや合弁事業を進める際に、多くの企業が苦労しているのが、ヒトの問題です。

人材流出

 買収後の経営幹部やキーパーソンが、買収から間もなく突然退職し、競合会社へ転職してしまったケース。更に、退職した元幹部が人材引く抜いて自社と競合する事業を始めてしまった、等というケースもあります。

 特定の特許、権利、資産などを取得するのが主目的のM&Aは別として、ほとんどのM&Aでは、買収先企業のキーパーソンの維持が、買収後の事業の成否を分けると言っても過言ではありません。一方で、人材の流動性が低い日本企業では、人材の流出防止については、あまり大きなリスクを感じておらず、無頓着なケースが多いのも事実です。

組織マネジメント

 人材流出防止に加えて、多くの日本企業本社が悩むのは、買収した海外子会社、合弁会社をどのように経営するかという点です。基本方針を決め、どのようなガバナンスを導入するかという点が明確になっていないと、勝手に暴走し始めます。日本の大手企業が海外でM&Aを始めた1990年代頃は、Hand-off(無干渉)状態でした。自主独立の経営と言えば聞こえは良いですが、実態は放任状態のケースが多かったと思います。その後、業績の悪化などがあり、方向転換をしたものの、今度は逆に箸の上げ下げまで口を出して、現地幹部の士気低下を招き、結果として優秀な人材の流出を招いてしまったというケースもあります。

買収契約時とPMI、それぞれの段階で何をすべきか?

 それでは、買収前、買収後にそれぞれ何をすれば良いのでしょうか? 

(注) PMI(Post-Merger Integration): M&Aを実行した後、買収した会社をどのように経営し、親会社である自社と経営統合を行うかという一連のプロセスのこと。「統合」と言っても必ずしも、会社を吸収合併するという意味ではなく、例えば共通業務を一緒に行うといった、業務プロセスの見直し・効率化も含めて検討します。

買収前に行うべき事項

・買収前のDue Diligenceの段階では、誰がキーパーソンなのか、という点を、インタビュー等を通じてしっかり把握することが重要です。Due Diligenceは秘密裡に行われるので、従業員全員にインタビューすることは不可能ですが、最低でも経営幹部にはインタビューを行い、買収後の事業運営にとっての重要性、そして、そもそも買収後残ってくれそうな人材かどうか、という点を判断します。

・それでも完璧な見極めは1~2度のインタビューではできませんので、買収時の契約書にキーパーソンの継続勤務を条件にする旨の条項を入れる、といった対策を取ります。但し、従業員の転職はどこの国でも原則自由ですので、契約で完璧に縛ることは不可能です。

・また、経営幹部が会社の株主で、M&Aにおける売り手の場合には、M&A実施後、数年間の協業避止義務を負ってもらう、ということもよく行われています。

買収後に行うべき事項

・上述の通り、従業員の継続勤務を契約で完璧に縛ることは無理なので、買収後の施策(PMI)が重要になってきます。一つは、処遇や経済条件でつなぎ留めるという方法。以前のブログでも紹介しました。長期インセンティブプランを買収直後に導入し、一定期間の継続勤務と業績目標の達成を条件にボーナスを支給するというものです。これは買収後に検討を開始するのでは遅いので、導入するのであれば、買収前にプランの設計を済ませておく必要があります。Due Diligenceの期間は、単に対象企業の調査をするだけではなく、買収後のプランを練る期間でもあるということを念頭において進めることが極めて重要です。M&Aが公表される時点では、対象従業員にプランの詳細を説明できるようにしておきましょう。

・経済条件は人材流出防止の必要条件ではありますが、十分条件ではありません。競合会社がより良い条件を出せば、簡単に引き抜かれてしまうこともあります。新しい株主のもとで、自分が所属する会社の事業や自分自身のキャリアがどのように成長できるのか、そのために新しい株主はどのように買収した会社を経営するのか、といった点は買収される会社の従業員から見ると、非常に重要なポイントです。そして、その重要なポイントである経営方針やガバナンスの仕組みが、曖昧であっては意味がありません。文書化され、会議体やさまざまな場でのコミュニケーションが行われなければ、伝わらないからです。特に海外企業のM&Aでは、言葉の違い、文化の違いを乗り越えて、親会社と買収された子会社がグループとしてうまく一体運営できるように、時間をかけて、国境を超えたグローバル経営管理規程や業務プロセスを丁寧に作り込んでいく必要があります。

・業務プロセスと同時に、組織運営についても親子会社間で明確にしておく必要があります。子会社の役員会には親会社の誰が参加するのか、子会社の社長は誰にレポート(業務指示を仰ぐ)するのか、といった組織設計をしっかり行っていくことが重要です。

 尚、上記で紹介しましたインセンティブプランの設計グローバル管理規程については、それぞれ過去のブログ記事も参照してください。

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