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グローバル経営は何故うまく行かないのか(業績管理1/2)


 米国をはじめとして、海外における経営幹部の報酬は絶対額が日本に比べて高いだけではなく、業績に連動した変動給(インセンティブ)が高い比重を占めます。年間賞与(短期インセンティブ)とストックオプションなどの長期インセンティブを合わせると、年間給与と同額あるいはそれ以上の金額になることもめずらしくはありません。

 これらのインセンティブ制度を活用して、(1)経営幹部の流出防止と(2)会社業績の向上を図ることが重要でです。

(失敗例1)短期目標のみの業績管理

 海外の子会社の経営幹部には、子会社の営業利益を年間ボーナス(短期インセンテイブ)の目標として業績を管理している。長期インセンティブ(1年を超える長期の会社業績に連動した報酬)は設けていない。単年度の利益達成を重視するあまり現地幹部は経費の削減に注力。必要な先行投資も削減しているため、従業員のモチベーションは低下し、売上も低迷してしまった。

(失敗例2)事業目標と合わない業績指標の設定 

 営業出身の現地幹部を販売子会社社長に登用した。現地子会社の利益は、日本から輸出する製品の仕切り価格に依存するので、現地の経営幹部には利益よりも売上拡大を担って欲しい、という日本本社の意向があったため、売上をインセンティブの目標とした。ところが現地では売上拡大を狙って、安売り攻勢を仕掛けたため、損益が大幅に悪化してしまった。

(失敗例3)労働市場に合わない報酬制度

 東南アジアで子会社の社長に初めて現地スタッフを登用した。報酬は日本本社の仕組みに合わせて、年間ボーナスは4か月分くらいは支払っていたが、米国系の現地の会社に引き抜かれてしまった。背景を調べると、米国系の会社では年間ボーナス(短期インセンティブ)に加えて、長期インセンティブとしてストックオプションを与えているとうことであった。

評価制度の設計

海外子会社の経営トップの行動を規定する業績目標の設定は、本社が積極的に関与すべき重要事項です。会社としての戦略(事業拡大か利益重視かなど)を明確にし、子会社の経営を担う幹部にもこの目標を共有してもらうことが重要です。また、評価の基準が売上だけだと利益を度外視した売上拡大に足る恐れがあり、また、利益偏重だと、短期的利益目標達成のため、中長期的視点で必要となる先行投資が絞られてしまう、という問題がでてくることもあります。実務面では、成長と利益、短期業績と長期業績をどうやってバランスのとれた評価・報酬制度とするかが重要なポイントです。

 海外子会社の経営トップの場合は、通常、利益を目標としたインセンティブ制度を設計しますが、失敗例2のように、海外子会社の利益が日本本社に相当依存する事業モデルですと、子会社の利益が恣意的になる可能性もあり、現地幹部が疑心暗鬼となるケースもあります。また、報酬制度の問題以外にも、日本と海外の親子会社間での取引が市場取引(arms-length)で行われていない場合には、税務当局から移転価格問題で追徴課税を受けるリスクもあります。これらの観点から、親子間の取引といっても、第三者との取引と同レベルでの設定を行い、海外子会社は、あくまで独立企業としての利益が計上できることが大前提です。その上で、海外子会社の経営幹部には、キチンと現地で利益を上げてもらうための目標設定を行うことが必要となります。

報酬制度の設計

欧米を中心に、経営幹部の報酬制度は、株主の利益の最大化という視点から、短期業績と長期業績のバランスをとった設計がなされています。日本と比べて、経営幹部の流動性も高いため、人材の引き留めという観点も考慮する必要があります。

 ストックオプションはもともと、株主の長期的リターンの最大化と、経営幹部の引き留め(リテンション)を目的に設計された制度です。ストックオプションでは、会社から現金支出がなく、株価の値上がりが対象従業員の報酬となることから、欧米の上場企業を中心に導入されている制度です。最近では、ストックオプションの費用を会計上認識する必要がでてきたため、報酬制度としてのストックオプションの重要性は低下してはきていますが、これに代わる制度(現金支給の制度や制限付き株式など)と併せて、長期インセンティブ制度は依然として重要な報酬制度の要素となっています。進出国における経営幹部のインセンティブ報酬の仕組みと水準に留意して、報酬制度を設計する必要があります。

業績評価管理の方法

 業績管理で重要なのはまずは予算(目標)の設定です。報酬のベースとなる予算は、現場からすると低めに出したいという傾向がありますので、子会社から提出された予算や事業計画が妥当かどうか、本社側で査定することは必須です。海外の事業であり、且つ、言葉も違う中で、現場から提示された予算に質問したり、注文をつけるのはなかなか大変なことです。しかしながら、これができないと海外に子会社をつくってグループ会社の一員として事業を運営して行く意味がありません。

  ここでまず行うべきなのは、提示された予算や事業計画に対して、「適切な質問」を行うことです。「適切」というのは、計画に織り込まれた市場分析、事業戦略、財務数字がそれぞれ矛盾なく、且つ実現可能な形で構成されているかどうかをチェックするということです。M&Aの際に行われる事業デュー・ディリジェンスの手法を活用すると効果的な予算レビューを行うことができます。 

 

中小企業の海外展開、海外子会社・ジョイントベンチャーなどのグローバル経営について、海外進出の初期的な検討(フィージビリティスタディ、事業計画作成)から進出後の経営戦略、組織運営、人事管理、財務管理など様々な課題に至るまで一貫した支援を行います。

 海外事業での成功例、失敗例を含めて大手企業で長年の実務経験をもとに、海外展開に悩む日本企業の経営者の方のご支援を行います。無料相談を行っていますので、お気軽にコンタクトください。

※事務所は大田区です。東京都内23区内であれば訪問相談可能です。(それ以外の地域の場合は、メール、電話、チャット等でのご相談も可能です。)

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