グローバル経営は何故うまく行かないのか(ビジョンと戦略:FSをつくる)

グローバル経営がつまづく第一のポイントは進出時に、グローバル展開の目的と戦略をよく考えずに、子会社を設立したり、合弁会社をつくってしまうケースです。
(失敗例1)コストダウン目的の海外進出
コストダウンの目的で海外に合弁で工場をつくったが、現地での人件費高騰により期待したほどコストダウン効果がでなかった。一方で品質が低下したため、日本から多数の出張者を派遣して対応にあたったため、更にコストアップ。
合弁パートナーとはさんざん揉めたあげく、合弁会社の株式を現地パートナーに二束三文で譲って撤退した。
しばらく後で現地からの噂を聞くと、現地パートナーの下でその会社は、現地向きの製品を製造・販売し、好業績をあげているという...
(失敗例2)現地販売のための海外進出
日本の製品を海外展開すべく、現地に販売子会社を設立。日本人の営業マンを派遣し、現地でも営業担当を採用して営業活動をはじめた。日本とは求められる製品仕様が異なることはあらかじめ調査してわかっていたが、トップの強い意向により、軽微な仕様変更で販売できるだろうとい目論みで見切り発射の海外展開となった。
1年間は頑張ったが、結果は、まったく売れず、会社を清算し撤退することになった。
(失敗例3)合弁契約に関するもめごと
現地で有力なパートナーから強い要請を受け、製造・販売の合弁会社を設立することになった。現地での販売はパートナーが協力してくれるはずであったが、ふたを開けてみると全くの期待外れで、売上は伸びず、工場は低稼働により3年連続で赤字。増資をしなければ間もなく債務超過に陥り、現地で資金調達も厳しくなるという段階になって、日本側は撤退の意思を固めた。
撤退の意思を現地パートナーに伝えたが、全く受け入れてもらえなかった。合弁契約には、合弁事業の解消に関する事項が明確に記載されていなかったことも問題を大きくしていた。結局、長い年月をかけた交渉の末、合弁解消まで10年以上の時間が必要であった。
(失敗例4)政府からの補助金を撤退時に返還
現地政府から投資に対して補助金が提供されるということで、大きな投資を行い開発拠点を設立したが、数年後、景気が悪化し、この拠点を閉鎖せざるを得ない事態となった。設立時の現地政府との合意書を読み返すと、雇用を減らす場合には、補助金の返還義務が生じるということが判明した。リストラ費用を払って、その上に補助金まで返還したら非常に大きな損失が発生するため、経営陣の間では対応について意見がわかれ、大きな問題となっていた。
幸いにも、この開発拠点のリーダー格の従業員が、投資ファンドからの資金も得てMBOを行いたい、という提案が出てきた。結果として、従業員への事業譲渡という形で、リストラせずに済んだので、政府への補助金返還義務も免れることになった。
上記の例はいずれも筆者が直接もしくは間接的に関わったり、見聞きしてきたケースです。あとで冷静に考えると、「何故このような進め方をしたのか」と思うケースばかりですが、せっかくのビジネスチャンスを目の前にして、経営者やその周りで事業を進める人たちに、冷静に考えてもらうことは現実にはなかなか難しいものです。
FS(フィージビリティスタディ)をつくる
そもそもなぜ海外に進出しなければならないのか?高齢化し人口が減少、国内の人件費・土地など事業を行う上でのコストの高さ等々、一見すると日本企業の海外展開は自然な流れのように思われます。自社が海外展開を考えていなくても、取引先が海外展開して取引が無くなる、あるいは海外生産品に市場を奪われ、価格競争で敗退する、といったリスクに常に直面しています。 それでは、海外展開することによって、事業を成長させたり、リスクを回避することができるのでしょうか?経営環境が異なる海外での事業展開を成功させるためには、事前にしっかりとしたビジョンと戦略を立て、具体的に実行プラン、目標を策定することが必須です。「他社も海外にでているから」とか「現地パートナーから強い要請があったから」といった理由だけの成り行きの海外展開では逆に会社全体のリスクを高めるだけというにもなりかねません。
現地の市場環境、競争環境、そして自社の経営資源(ヒト、モノ、カネ)を冷静に分析し、その上で、考え得るリスクも織り込んだうえで、事業計画や合弁契約などを準備していく必要があります。
成長戦略としての海外への事業展開を戦略策定、フィージビリティスタディの段階から具体的な実行、実行後の海外事業管理体制の構築まで一貫して支援します。