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会社の価値はどうやって決まるか?(2)評価方法


 M&Aにおける事業価値の評価方法には、三つの代表的な方法があります。

(1)インカム・アプローチ:DCF法(Discounted Cash Flow)

 会社が将来生み出すキャッシュ・フローを算定し、これを一定の割引率(加重平均資本コスト)で現在価値へ割り引いて事業価値を評価するものです。DCF法で算定するのは、事業価値ですので、ここに余剰現金や投資用資産などの非事業資産を加算し、有利子負債を減算したものが株式価値です。

 株式価値=事業価値+非事業資産-有利子負債

 尚、DCF法で評価する際には、将来のキャッシュ・フローを評価する必要がありますので、事業計画の作成が必須です。通常3~5年程度の事業計画を作成した上で、計画最終年のキャッシュ・フローが計画期間後も永続するという前提で算定します。これは企業がゴーイング・コンサーン(無期限に事業を継続するものであるという前提)であるという考えからくるものです。何等かの事業により(プロジェクトの終息など)で事業の継続が見込まれない場合には、永続前提で評価を行わない場合もあります。

 また、将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引く際の割引率は、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産評価モデル)により計算されます。CAPMでは、株式市場における個別銘柄と市場全体の株価変動をもとに、株式のリスクを求めます。個別企業や業界によってWACCは異なりますが、国内上場企業の場合、平均すると5~6%程度といわれています。

 ニューヨーク大学MBAでファイナンスを教えているDamodaran教授のサイトで世界各国における業種別のWACCを提供していますので、参考になるかと思います。

 非上場企業の場合、WACCの算定は難しいですが、同じ業界の上場企業のWACCをもとに、規模が小さいこと(サイズプレミアム)を加算して適用することは可能です。中小企業の場合ですと、まずは8~10%程度でみておくと良いでしょう。

 また、売り手側で事業計画を作成していない場合には、買い手側で過去の決算書から正常収益力(特殊要因を除いた企業本来の収益力)を財務デュー・ディリジェンスで算出し、これをベースに、将来見通しを売り手側からヒアリングした上で、事業計画を作成することになります。

 以上のような手間がかかるため、「DCF法は中小企業のM&Aには向かない」と言われますが、買い手としてはM&Aを行った後、対象会社を経営していくわけですので、M&A後の事業計画を作成する手間を省くというのは、あまりおすすめできません。事業計画があれば、DCF法による算定はそれほど難しくはありません。

(2)コスト・アプローチ

 時価純資産法と呼ばれ、バランスシートの資産、負債を時価評価に修正して、株式価値を評価する方法です。例えば保有する不動産に含み益がある場合には、不動産の時価評価額が反映され資産が増えることになります。逆に、従業員の未積み立て退職給付債務を考慮することによって負債が増える場合もあります。この方法では、あくまで会社の現時点での資産負債を評価するため、会社の将来収益力は一切反映されず、評価が低くなりがちです。将来収益があまり見込まれない会社を評価する際の下限の目安と考えておくとよいでしょう。

(3)マーケット・アプローチ

 類似上場企業比較法とも呼ばれます。対象会社と事業内容が類似している上場企業を数社選んで、経営指標をベンチーマークした上で、企業価値を評価します。算定されるのは、企業価値ですので、以下の算式で株式価値を算定します。

 株式価値 = 企業価値 - 有利子負債

 指標には、EBITDA(利払い前・税引前・減価償却前利益)、EBIT(利払い前・税引前利益)、PER(株価収益率)などの利益指標を使うのが一般的です。比較される複数の上場企業の企業価値(株価+有利子負債)がEBITDA,EBITの何倍になっているか、その平均値や中央値を算定して、適切な「倍率」を設定します。この倍率を対象企業のEBITDAやEBITに掛けて、企業価値を算定します。

 比較対象にする上場企業の選定によって結果が大きく異なる場合があり、どこまで「類似」しているかという判断が難しいケースもありますので、他の評価方法と併用して考えた方が良いでしょう。

 評価方法には、それぞれ長所短所がありますので、できればいくつかの方法で算定して、その結果をもとに、一定の幅(上限、下限)をもって、価格交渉を行うと良いでしょう。

 尚、国内の中小企業のM&Aでは、時価純資産+のれん代(営業利益の3~5年分)という評価方法が多用されていますが、これはファイナンス理論的には、(1)と(2)を混同したもので、そもそも「のれん代」の算定の仕方に何の根拠もありません。一定の条件下で、上記(1)、(2)、(3)の算定方法と近似値になる場合もありますので、一つの方法に固執せず、それぞれの方法により算定された結果を考慮しながら、価格交渉を進めると良いでしょう。

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