中小企業は本当に不要なのか?(2/2)
前回のブログ(11/26)で紹介したデービッド アトキンソン 氏の著書「国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか 」(講談社)の話題の続きです。 同書では日本には中小企業の数が多すぎる、ということが最大の課題として取り上げられています。 ここで注意しなければならないのは、「中小企業」の中に何が含まれているかという点です。具体的に言うと、2019年小規模企業白書では、中小企業数を358万者(2016年現在)としています。 ここで358万社ではなく、358万者としているのには、重要な意味があります。「358万者」の内、305万者は、いわゆる小規模企業と言われる従業員20人以下の事業ですが、小規模企業の内、約6割は個人事業者です。したがって、約180万者は、会社ではなく、個人事業主であり、この中には、フリーランスの人や、副業で起業した個人事業主なども当然含まれます。 ここまでの話で気づかれた方も多いかと思いますが、中小企業という数字の中には、起業の担い手たちも含まれるということです。この起業の担い手たちは必ずしも「生産性の低い」事業者

中小企業は本当に不要なのか?(1/2)
ゴールドマンサックス出身のイギリス人デービッド アトキンソン 氏の著書「国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか 」(講談社)が話題になっています。タイトルは少し過激ですが、内容は、元証券マンらしく、統計データにもとづく理路整然とした議論を展開しており、一読の価値はあると思います。 要約すると、以下のポイントを挙げています。 ・非正規従業員と女性労働者の増加で賃金水準が低下。
・日本の最低賃金は先進国の中でも際立って低い。(独$11.1 米$9.3 韓$8.3 日$7.1)
・日本の生産性(一人当たりGDP)は、$42千で世界第28位。(米の7割程度、購買力調整後)
・20人未満の企業で働く人の割合は、日本が20%、アメリカは10%
・中小企業保護施策が生産性の低い企業を温存している
・最低賃金を上げなければ生産性は上がらない(企業の自主性に期待するのは無理で、政策が必要)
・生産性が上がらないと高齢化に伴う社会保障費の負担を維持できず、財政が破綻すると中国の属国となるしか選択肢はなくなる。 中小企業不要論のように受

Business Succession of SMBs in Japan (3)
Business Succession Crisis and Opportunity Aging of small and medium sized business (SMB) owners provides a great opportunity for M&A. T

Business Succession of SMBs in Japan (2)
As the age of business owners increases, larger number of companies expect decrease in profitability. Impact of Ageing on Company Profit (Source: Whitepaper on Small and Medium-Sized Businesses, 2013) Many companies have difficulties in selection/recruitment of successor and customer relations (after the retirement of the current business owners.) (Source: Whitepaper on Small and Medium-Sized Businesses, 2019) Types of Business Succession For those who do not have successors

Business Succession of SMBs in Japan (1)
The number of small and medium-sized business (SMMs or SMEs) in Japan is decreasing, primarily due to the ageing of business owners and low rate of founding. Definition of SMBs in Japan According to the above definition, 99.7% of business entities are small and medium-sized businesses, and they employ 70.1% of total working population in Japan. As the graph below shows, the total number of small and medium-sized companies has decreased from 4.8m to 3.6m from 1999. (Source: Wh

グローバル経営(実践編10)海外M&AにおけるPMIの勘所
海外でのM&Aや合弁事業を進める際に、多くの企業が苦労しているのが、ヒトの問題です。 人材流出 買収後の経営幹部やキーパーソンが、買収から間もなく突然退職し、競合会社へ転職してしまったケース。更に、退職した元幹部が人材引く抜いて自社と競合する事業を始めてしまった、等というケースも

事業デュー・ディリジェンスの進め方
12/31のブログで、サラリーマンは会社を買うべきか、というテーマをとりあげ、事業デュー・ディリジェンスは、買い手の事業責任者が行うものである、という説明をしました。外部専門家が中心となる税務や法務デュー・ディリジェンスとは異なり、事業デュー・ディリジェンスは、買い手の経営者が主体的に関わっていく必要があります。 事業デュー・ディリジェンスの目的は大きく分けると3つあります。 (1)事業内容の把握とリスク分析 事業内容を把握し、維持可能、成長可能な事業であるかどうかを見極めます。ここで重大な問題を発見した場合には、案件を中止するという判断も必要です。また、仮に中止するまでもないが、買収後に損害が発生するリスクがある場合には、株式(事業)譲渡契約書における損害賠償条項等でリスクを売り手が負担する形にします。 (2)事業計画の作成 対象会社を取り巻く市場環境、競合状況、顧客動向などを把握するとともに、買収後に経営改善できる項目を洗い出し、買収後の事業計画を作成します。また、事業価値を算定する際にも、DCF法で評価を行う場合には事業計画が必要です。 (

サラリーマンは会社を買うべきか?
今年話題になったビジネス書のひとつに事業再生・承継ファンド代表の三戸 政和氏が書いた「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」という本があります。この本がベストセラーになってからサラリーマンによるM&Aの問い合わせが増えているという話も聞きますので、相当インパクトのある本であったと思います。 私は、帯に書いてある堀江貴文氏の言葉「終身雇用は現代の奴隷制度」に惹かれて買いました。 さて、300万円で会社が買えるかどうかは別として、本当にサラリーマンは会社を買って資本家になれるのでしょうか? 著者は、大企業で管理職を務めた人であれば、会社のマネジメントの仕組みを一通り理解しているので、中小企業を経営することは可能である、という考えです。 一方で、「大企業のサラリーマンなんて組織の歯車で、ごく一部の職務を担っているだけなので、いきなり会社の経営などできるわけがない。中小企業の経営はそれほど甘くはない」という批判的な意見もあるようです。 この点に関しては、私は、どちらかというと著者の意見に賛成です。もちろん中小企業の経営を甘く見ているわけではあ

会社の価値はどうやって決まるか?(3)DCF法
中小企業のM&AにDCF法は向かない、ということがよく言われています。本当にそうでしょうか? 確かに日ごろから事業計画を作成している中小企業は少ないので、事業計画をもとに価値を算定するDCF法は向かないというのは一見もっともな議論にも聞こえます。 一方で、買い手の視点からすると、対象企業の事業の見通しもわからずに、事業を譲り受けるというのはあり得ない(あってはならない)ことだと思います。たとえ売り手が事業計画を作成していなかったとしても、入手した過去の財務諸表やデュー・ディリジェンスで得た事業の見通しをもとに買収後の事業計画を策定する必要があります。 また、売り手としても、買い手から提示される価格をうのみにするのではなく、自ら事業計画を立てて、これをもとに価格を交渉するくらいの姿勢をとるべきだと思います。 今後5年程度の事業計画があれば、これをもとにDCF法で事業価値を算定するこは可能です。 サンプル(DCFモデル)にあるような形で、営業利益からキャッシュ・フローを導きだし、それを一定の割引率で現在価値に割りもどすことで算定できます。 【DCF法

会社の価値はどうやって決まるか?(2)評価方法
M&Aにおける事業価値の評価方法には、三つの代表的な方法があります。 (1)インカム・アプローチ:DCF法(Discounted Cash Flow) 会社が将来生み出すキャッシュ・フローを算定し、これを一定の割引率(加重平均資本コスト)で現在価値へ割り引いて事業価値を評価するものです。DCF法で算定するのは、事業価値ですので、ここに余剰現金や投資用資産などの非事業資産を加算し、有利子負債を減算したものが株式価値です。 株式価値=事業価値+非事業資産-有利子負債 尚、DCF法で評価する際には、将来のキャッシュ・フローを評価する必要がありますので、事業計画の作成が必須です。通常3~5年程度の事業計画を作成した上で、計画最終年のキャッシュ・フローが計画期間後も永続するという前提で算定します。これは企業がゴーイング・コンサーン(無期限に事業を継続するものであるという前提)であるという考えからくるものです。何等かの事業により(プロジェクトの終息など)で事業の継続が見込まれない場合には、永続前提で評価を行わない場合もあります。 また、将来のキャッシュ・フロ
